私とKは、足並を揃え朝礼がおこなわれる部屋に向かった。朝礼部屋に向かう途中、Kは一言「ありえない・・・」と私に愚痴をこぼした。Kだけはわかってくれている・・・それだけで私は幾分気が楽になった。
朝礼部屋に向かうと営業部全体の社員が、朝礼部屋中央のデスクを囲い円になって立っていた。少し離れたところにホワイトボードがあり、そこに「本日の予定」が書き出されていた。今日の来客、本部の予定、本日休暇をとっている社員など情報の共有をしていた。
社員が集まったところで司会が口を開いた「それでは、○月○日の朝礼をはじめます。おはようございます!」おはようございますと一同。
「それでは本日の担当の人は、「最近あった感動した出来事」を一分間ほどで結論から話してください」
「はい、私は電車の中おばあちゃんに席をゆずった若者の姿に感動しました。若者は2人組だったのですが、おばあさんが電車に乗るまでは脚を組み、ぺちゃくちゃと周りのことを気にせずに話していました。みんなうるさいなぁという目でその若者2人組をみていました。しかし、腰の曲がったおばあさんが電車に乗ってくるとすぐさま組んでいた脚をほどき、席をゆずったのです。その姿に私は大変感動し、やはり、相手のことを考えた上で思いやりをもって人と接することはとても大切だと思いました」
「では今の話の感想を○○さんお願いします」
「おばあさんに席を譲ったことに対して感動したとのことだったのですが、普段私はおばあさんに対して席をゆずることはないので、私もその若者を見習いこれからは率先しておあばあさんに席を譲ろうと思いました。以上です」
パチパチパチパチ・・・パチパチパチパチ・・・
「はい、ありがとうございました。それでは次に本日のページを朗読してください」
・・・・「・・・・なんだ!この朝礼は!」思わず私とKはちらりとお互いの目をあわせていた。「なんだこのとってつけたようなレベルの低い感動した出来事は!!」それがお互いの感想だったに違いない。しかも何かに洗脳されたかのように、みんな耳を傾けウンウンと首を縦に振り熱心に話をきいていた。私とKは温度差を感じ、居たたまれない気持ちでいた。
続いて本日のページの朗読が始まった。
「信念 信念というものは、願望という、形を持たない一種の思考を、物理的な実体(たとえば金)あるいは現象的事実(たとえばスポーツで優勝する)に転換するのである。すなわち信念によって、思考は紛れもなく現実化するのだ。信念なくして成功はない。信念は深層自己説得によって強化することができる。信念は限界を打ち破る役目を果たす
負けると思ったらあなたは負ける。負けてなるものかと思えば負けない。勝ちたいと思っても勝てないのではないかと思ったら、あなたは勝てない。負けるのじゃないかな、と思ったらあなたはもう負けている。というのも、成功は人の考えから始まるからだ。すべてはあなたの心の状態によって決まるのだ。自信がなければあなたは負ける。上に登りつめるには高揚した精神が必要だ。なにか勝つためには自信が必要だ。人生の戦いに勝つのは、必ずしももっとも強くて、もっともすばしっこい人ではない。最終的に勝利を収めるのは”私はできる。”と思っている人なのだ。」
朗読はまだまだつづく。
「「人は考えた通りの人間になる」ジェームス・アレン。もしあなたが負けると考えるならあなたは負ける。もしあなたがもうダメだと考えるならあなたはダメになる。もしあなたが勝ちたいと思う心の片隅で無理だと考えるならあなたは絶対に勝てない。もしあなたが失敗すると考えるならあなたは失敗する。世の中を見てみろ最後まで成功を願い続けた人だけが成功しているではないか。
すべては人の心が決めるのだ。もしあなたが勝てると考えるならあなたは勝つ。向上したい、自信をもちたいと、もしあなたがそう願うならあなたはその通りの人になる。さぁ出発だ。強い人が勝つとは限らない。すばらしい人が勝つとは限らない。私はできる、そう考えている人が結局は勝つのだ」
パチパチパチパチ・・・私とKは空いた口がふさがらなかった。「ブラックだ・・・これは完全にブラックだ・・・」それは、どこかできいたことがあるような内容だった。そう・・・それはブラック企業が社畜を飼いならす為に読む朗読・・・私とKは身の危険を感じた。
「それでは続いて社訓!私たちは・・・」
もうきいてられない。入社2日目にして、私は周りとの温度差にものすごいギャップを感じてしまっていた。それはKも同じだったようだ。Kはもうこの場所から逃げ出したい・・・いや、むしろ「私が間違っていました、退職させてください」そんな表情をしていた。
続いて、本日の予定を読み上げた。その時だった。私の隣に居た初老の男性がぶつぶつとヤジを飛ばしはじめた。いや・・・随分前からぶつぶつはきこえていたのだが、私は朝礼の内容が強烈すぎて初老の男性の言葉を無視していた。だがこの時になってようやく初老の男性の言葉が頭に入ってくるようになった。「ちゃんと漢字をかけよな・・・そんな汚い字じゃよめないだろ・・・きちんと話せよ。これだからまったく最近の若者は・・・ぶつぶつ」
それは、朝礼が終わるまで延々と続いた。「そう思わないか?なあそう思わないか?あいつはいつもそうなんだよな・・・いつも大事なところで間違える・・・人としてどうなんだあいつは・・・でも最近感動した出来事はよかったな・・・あれはいい話だ」
This is 独り言。実はそれがブラック企業で、かの有名な、クラッシャー上司だった。
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