「いいか、何かあったらオレに必ず相談しろよ」パワハラおじさんは私にそう言った。今思えばそれは、私が諏訪から引き継ぐことになった元パワハラおじさんのクライアントのことを意味しているのだと思う。もちろんそれだけではなく、パワハラおじさんは兄貴分の資質を兼ね備えていたので、もしかしたらその他の面でも相談に乗ってくれたのかも知れない。しかしブラック企業に入社してから退職することになるまで、私はパワハラおじさんに相談することはなかった。それはパワハラおじさんの二面性を私は知っていたからだ。
私が営業部員としてブラック企業に入社する前パワハラおじさんが営業部を取り仕切っていたのはこれまでに述べた通りだ。しかし、それだけではなくパワハラおじさんは物流面や仕入れの面についても口を出していた。
もともと営業と物流は密接な関係にあり、物流なしには営業部の仕事はままならない。だからどうしても物流とは密に連絡を取り合うことになる。私が入社し、しばらくして物流から営業に配属替えになった人物がいた。それが私が言う「密告者」だった。
「密告者」である斉藤は社内の様々な事情を非常に精通しており、ブラック企業では比較的ニュートラルな存在だった。つまり、ブラック企業だと認識しており改革を迫る改革派と、ブラック企業に染められた社畜社員のちょうど中間地点の立ち位置をとっていた。だから「密告者」である斉藤のもとには改革派とブラック企業に染められた社畜社員の両方の情報が集まってくる。
密告者斉藤の話しによると、パワハラおじさんはとんでもないクラッシャー上司だった。自分の気に入らないことがあるとすぐに怒鳴り散らし、暴力をいとわない。会議中にも関わらず罵声を浴びさせ、社員を再起不能の状態にし自分にそぐわない社員はどんどんやめさせていく。
それは言葉だけの暴力に限らず、殴る蹴るまで及んだいたそうで、皆パワハラおじさんを怖がっていた。毎週行われる会議ではパワハラおじさんの顔色を伺い誰も意見を言うことが出来ない。営業部だけではなく、物流の方にも口を出し、かげで殴る蹴るを繰り返す。まぎれもなく、ブラック企業の諸悪の根源とも呼べるようなブラック企業の社員を食いつぶすクラッシャー上司のひとりだった。
一旦そのようなことが行われると社内でもどんどん噂は広がる。しまいにはどんどんとうわさ話に尾ひれがつき、一部幹部をのぞいた全社員にパワハラおじさんの噂は広まっていった。
これではいけない。これでは本当にブラック企業がダメになる・・・そう思った社員がいた。その社員こそがブラック企業改革派の先頭を立って指揮する、増山の存在だった。
そして増山はついに、パワハラおじさんを左遷させる為の計画を立てる。
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