Kが引き継ぎのため会社を出て行ってから私は何もすることができずただ流れる時間に身を任せていた。
午後になると、私はブラック企業に染められた社畜社員である諏訪に同行することになった。私と諏訪は車に乗り込み、目的地へと向かった。普通この場合、運転は私がするべきなのだろうが、諏訪が率先して運転をすることになった。
諏訪は移動中常に電話をしていた。普通は運転しながら電話をしてはいけないのだが、諏訪の中では、というより私が転職したブラック企業の中ではそれが暗黙の了解としてよしとされている。
しかも、イヤホンマイクを使うのではなく、普通に携帯電話を持ち片手運転などして電話をする。ある時はハンドルの上にメモ帳を起き、肩と耳の間に携帯電話を挟むことで運転しながら、通話をし、さらにメモを取るという芸当をやってみせた。
諏訪は建前上はクライアントのことを第一に考えて動いていた。だから、運転中であろうが、集中して仕事に取り組んでいる時間であろうが、休憩中であろうが、はたまた就寝中であろうが、電話がなると即座に電話に出る。
一番厄介なのは大事なことを話している最中にとっさに電話に出ることだ。私が業務についての質問をしているさなか、まだ話が終わっていないのにも関わらず出る。それもしょっちゅう電話がかかってくるので、まともに会話をする時間がない。というか、午後はほぼ諏訪の電話は鳴り止まない状態だった。ひとつの電話が終わると、またすぐにクライアントから電話が入る。ひどい時では通話中に何件も割り込み電話が入り、電話の対応だけで1時間など消費される。
それも移動しながらの会話のため助手席に乗っている私は冷や汗ものだった。警察が近くに居たら教えてくれということを言われていたが、そう言う問題ではない。
だったらイヤホンマイクを使えばいいじゃないかと私は、再三提案したのだが、面倒くさいの一点張り。聞く耳さえ持たない。しまいにはイヤホンマイクを買うお金がもったいないという。まったくどうしようもない。
実際、何度か警察につかまりそうになったこともある。しかし、諏訪はさすがはブラック企業を生き抜いてきただけあってその対応策も心得ていた。例えば襟がたったコートを着ることで携帯電話を襟の中に隠す。そうすることで携帯電話は一切見えなくなるのでちょっとだるそうに運転しているだけのようにみえる。
口はマスクで隠せばわからないし、もし何か不味いことがあればそのまま携帯電話をコートの中に肩からストンと落とせばいい。その後は見えないように回収すればいいだけの話だ。
そうすることでしのいできたと諏訪は言っていたし、実際私も何度か警察の前を通り過ぎる光景をみたが、警察は見事にスルーしていた。さすがはブラック企業、相手を欺くワザにたけていた。
つづきはこちらから【ブラック企業体験談】入社4日目、ブラック企業では全ては自己責任と言う名のもとに理不尽な処理をされる。
[…] 【ブラック企業体験談】入社4日目、ブラック企業では警察さえ欺いていた… […]
[…] つづきはこちらから【ブラック企業体験談】入社4日目、ブラック企業では警察さえ欺いていた… […]