そもそも高崎は、よくもあんな状態で社内に居座り続けることが出来たのだと思う。頭がよろしくないからなのか、それとも相当肝が据わっているからなのか・・・今の私が考えても到底理解することは出来ない。
幸か不幸か、高崎はブラック企業に新卒で入社しており、他の企業を知らなかった。つまり一般的な企業を知らず、高崎にとって私が転職したブラック企業がスタンダードだった。
私が思うに高崎は私が転職したブラック企業以外ではまったく通用しない男だと思う。何故なら、仕事の基本の報連相が全く出来ていないし、高崎の行っていたことと言えば単なるドライブ。午前中は仕事をするふりをみせ、午後は一人ドライブだ。携帯電話をサイレントモードにし、電話が鳴らない状態にし、後は好き勝手いろんなところをドライブする。
たまにクライアントの元に顔を出すも、アポイントを切っていないため、今は忙しくて会えないと断られ、またドライブ。
それが延々と数年間繰り返された。それでは、もちろんクライアントも逃げていく訳だし、クライアントの言い分としては正しい。「なぜ、電話に出ないんだ!」「なぜ、こちらが連絡を取りたい時にいつもでないんだ!」・・・それなりの鬱憤はたまっているはずだ。恐ろしいことに取引をはじめてから一回も顔を出していない企業もざらにあったし、取引額が多いのにもかかわらず、放置して訪問にさえ行かないクライアントも多かった。
実は高崎の前任の担当者も同様のことをしていたようだった。高崎のことを同情するのなら、それはつまり最悪の状態で引き継ぎをされ、高崎が引き継いだ時には手のうちようがなかったと言える。高崎はもともと他部署におり、営業に異動してきた。しかし、高崎は営業経験はゼロ。他部署としてそれなりに業務をこなすことができたとしても営業としては素人、それなりの苦労をしたようだった。
さらに最悪のクライアントを持つ前任からのバトンタッチということもあり、非常にてこずった。どうしたものか、どうすればいいのか・・・しかし、高崎の根暗の性格も手伝って人に訊くことが出来ない。わからないことを質問することも出来ずにいたずらに時間は過ぎていく。その間にもクライアントからの要望は高くなり、さらに手の付けられない状態に膨れ上がった。
そしてある時、高崎は苦肉の策に出る「無視すればいいんだ」。そして、無視し続けた結果クライアントの不満は爆発する。その最悪のさらに最悪の状態であるクライアントを引き継いだのがKだったのだ。
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