経営戦略室に入社した大須は私がブラック企業に転職してしばらくしてから転職してきた人間だ。一般的に仕事盛りと呼ばれる40代での転職。失敗すれば、恐らく後はない。そんな状況での転職であったから、おそらく自分の能力に自信があったのだろう。
大須は重苦しい雰囲気の男だった。銀行員のような佇まいをしており、お金の匂いがただよう男だった。事実私は後に大須とお酒を酌み交わした後、クラブに連れて行ってもらい、数十万円もするクラブのサービス代金を奢ってもらったこともある。
また、銀座のクラブを毎日のように飲み歩いていた時期があるらしく、そのせいか銀座のクラブについて熟知していた。
大須はよっぱらうと、よく自分の自慢話をしていた。過去の栄光を話したがり、気がつけば、お酒がすすみ、どんどんと気前が良くなる。一晩中大須のお酒につきあったこともあり、もちろん全て大須の奢りだった。
いつもブラック起業の社内の事情についてアンテナを張っており、何かあると小さなメモ帳に、びっしりと小さな文字で何かを書き留めている様子がすごく印象的だった。その小さな文字がびっしりと書き込まれた、小さなメモ帳が大須が仕事をする上で大事なアイテムであることは間違いなかった。そしてそのびっしりと刻み込まれた文字は、大須が仕事を出来ることを意味していた。
とはいいつつも、大須のそんな姿はまた傲慢にもうつる。だからもちろん大須のそんな自慢話をする姿をよく思っていない人間もいたのも事実だ。私は自信のあらわれか、それとも今の自分に自信がないから過去の自慢話をするのか、そのどちらとも判別することが出来ず、日によって自信のあらわれであったり、自信がなかったり、揺らいでいるのではないかと思っていたが、あまり深くは考えずに大須と関わっていた。
「任せとけ」が大須の口癖でブラック企業の上司の中で増山をのぞいて唯一の私が全信頼をおくことができた人物だった。
実を言うと、私がブラック企業を退職する際、大須の存在だけが気がかりだった。それは、私はとある理由から、改革途中で私はブラック企業を退職したからだ。最後まで大須の仕事をみてみたい・・・大須がどのようにこのとんでもないブラック企業を改革していくのか最後まで見届けたい・・・そんな気持ちもあった。
しかし、この後、話すことになる、そんな気持ちを凌駕するほどの事件が私の身に訪れ、私は退職の道を進むことになる。
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