私が転職してしばらくするとブラック企業内に経営戦略室が創設された。そしてその経営戦略室に転職してきたのが大須だった。大須は社外からの引き抜きではあるが他業界からの転職組だった。ではなぜ40代の脂がのった年齢の大須がブラック企業に転職してきたのかというと、どうやら、社長と十年来の友人であり、「会社の改革を頼む」ということで引き抜かれてきたらしい。
私が転職したブラック企業ではどちらかと言えば社長は比較的まともな存在だった。ただビジョンだけが先行し現場の部分を把握することが出来ず、そのため社内は混乱に満ちていた。社長は結局何もしない、言うだけ言って行動にはうつさない。会社は社員の幸せの為だと言っておきながら、社員のことを考えない。それが大方の意見だった。
ただ、社畜社員の中には「社長はオレたちがいなければダメになる」と妙な使命感を持って取り組んでいたものもいるのも事実だった。だから一概にはそうはいえないところがある。
大須は前職では経営企画室におり、それなりの成果をあげてきたようだった。それが認められ、今回の引き抜きということになったのはもちろんなのだが、大須が転職したのは前職の社長に対して大きな不満を持っていたのが直接の原因だったようだ。
大須の前職の社長はほとんど会社に来ることはなく遊びほうけていた。しかも成果の割りには給料が全く上がらない。自分も良い年齢だ。これが最後のチャンスかも知れない。そう考えている時、ブラック企業の社長からオファーがあった。「うちで改革をしてくれないか」と。
大須は考えた挙げ句その話に乗った。そしてあらたに経営戦略室が創設され、大須はその経営戦略室長としてブラック企業に転職した。だが、創設されたばかりなのでもちろん室長は名ばかりで実質一人の部署だった。
それから、大須はブラック企業内での全部署を数週間かけて巡り、ブラック企業内での様子を探った。大須の洞察力は大変優れており、人の話し方、考え方、見た目などから大須なりにプロファイリングするのを特異としていた。
その人物のプロファイリングも大方あっていた。つまり人を見る目があった。
そしてこの大須との出逢いが私と増山の一派、つまり改革派の流れを大きく変えることになる。
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