改革派である増山は、パワハラおじさんの一連の騒ぎを良く思っていなかった。パワハラおじさんが営業部にいる限りブラック企業はさらに悪くなる。いや、もっと言えば会社の未来が危うくなる。しかし決定的な場面が訪れず様子をうかがっていた。
増山はパワハラおじさんと同じく引き抜きでの入社だった。ただパワハラおじさんとの決定的な違いは、増山は業界内での引き抜き入社だったということだ。だから、入社後間もなく役職がつき、増山はブラック企業内でそれなりのポジションについていた。
ある時、些細なことがきっかけで増山とパワハラおじさんは社外で言い合いになったことがあるという。その理由はわからない。ただ言い合いになったことがあると増山からきいていた。それは、それは社長がわざわざ割って止めに入るほどの口論だったという。
その時から増山とパワハラおじさんとの戦いは火ぶたが切って落とされたようだ。
増山は兄貴肌で後輩への面倒見がよかった。だから後輩から一目置かれる存在であり特に改革派社員には好かれていた。パワハラおじさんも一見すると兄貴肌で面倒見が良いように見えたが、パワハラおじさんと増山の決定的な違いは、増山は人徳者であると言う部分だった。物事を冷静に見定め判断し、行動する。パワハラおじさんと違いただ感情に任せ、決して周りに当たり散らしたりはせず相手のことを考えた上で行動する。つまり、後輩を育てると言う部分に置いてまさっていた。
そして、その増山がパワハラおじさんを左遷した。方法はわからないが切れ者で仕事が完璧なパワハラおじさんが本社の片隅にいる理由は増山によるものだった。しかしそれ以上に増山のすごいところはそんなパワハラおじさんにも一定の敬意を示し、増山が左遷させたにもかかわらずそれを左遷だと思わせない点にあった。
つまり、表向きには本社への異動にみせた。さらにそれは増山による裏工作ではなく、社長からの通達で本社に異動となったとみせた。だからパワハラおじさんが実質左遷されたことは誰も知らない。表向きは本社への異動だ。
誰も知ることのない増山とパワハラおじさんとの一連の騒ぎを、なぜ私がこの話を知っているのかと言えば、私がブラック企業でクラッシャー上司について悩みを抱えている時、相談を持ちかけたのが増山だったからだ。これから話すことになるが、当時私は、ブラック企業の新たなる宿敵クラッシャー上司と対峙中であり、絶対的な窮地に立たされていた。
そんな私をみかねて増山は心を開き、その一見私に語ってくれた。そしてその時も私に、「オレがなんとかするから、お前も頑張れ」と励まし続けてくれた。
しかし、この後、私はそんな増山の思いを裏切り踏みにじってしまうことになる。
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