私とパワハラおじさんとの出逢いは突如として訪れた。それは私がブラック企業に転職し、しばらくたった時本社を訪れた時だった。その時はその人物がパワハラおじさんだと気がつきはしなかったが、パワハラおじさんは本社の片隅に席を置き、入り口を向いてふんぞり返るような格好で椅子にもたれかかっていた。
図体はわりとでかく、腹にたっぷりと肉のついた躯体、しかしながら愛嬌たっぷりの笑顔、さらに穏やかなその瞳は、まるでパワハラ上司を感じさせることはなく、気さくで話し好きなおじさん。噂とはかけ離れた人物で一見すると部下の相談にも親身に乗ってくれそうな部下思いの人物のように思えた。
それに倣い、当時、私のパワハラおじさんの第一印象はとてもよく、何故なら、ことあるごとに、「何かあったらオレに相談してこいよ。どんなことがあろうと、オレはお前の味方だからな」と逢うたびに言われており、信頼できる上司だと思っていた。
私の直属の上司である諏訪にも、パワハラおじさんは、とても信頼のできる人物であり、努力をすれば部下を上にどんどん押し上げてくれる力を兼ね備えており、いわば私が転職したブラック企業のキーマンである・・・と何度も力説して語られていた。パワハラおじさんについていけば間違いない・・・私はそう思っていた。
また、これまで数十年に渡り行われてきた家族経営の歴史の中で、はじめてブラック企業の中で本部長に抜擢された人物であり、対外的にもキレ者と呼ばれており、それはつまり仕事ができるということを意味していた。
とりわけ業界について熟知しており、会社の戦略を立てる際や主力商品を仕入れる際は必ずパワハラおじさんを通して行われており、商品の原価や利益率、相場観、また新商品であるにもかかわらず業界内でのその商品の位置づけや、なぜその商品が生まれたのか、なぜその商品でなければいけないのか、細かなターゲット層やどのような切り口が求められているのかなど全てにおいて精通しており、その商品のポイントを少しばかり訊いただけでそれら全てを瞬時に計算、「だったら・・・」と逆にメーカーに提案する・・・という離れ業を何度も繰り広げていた。
また頭の回転が早く論理的に考えることが出来、さらに数字に強く、誰が見ても、確かにキレ者と呼ばれるにふさわしい人物だった。何度もパワハラおじさんと同席し、商談に同席したことがあるのだが、確かに質問する内容は実に的を得ており、ごまかしがきかない、対外企業としては非常に説得するのが難しい、良い意味で厄介な人物だと思われていた。
取引のある企業の社員と会食をさせて頂いた際にも、ことあるごとにパワハラおじさんの話題はでており、誰にきいても非常に優秀な人物だと思われていた。またパワハラおじさんが関わった案件は非常に商談をまとめるのが難しいと恐れられていた。
実際私が大手企業との商談の場に何度も参加させて頂いたときも、その存在感は圧倒的で、媚び諂うことなく、言いたいことは言い、けれども謙虚な姿勢をあわせもち、最終的にブラック企業側に有利な商談をまとめていた。はたからみれば言うことなし、間違いなくブラック企業を支えている人物だった。
では、なぜ私がパワハラおじさんとここまで深く関わることができるようになったのか・・・それを語るには諏訪とパワハラおじさんとの関係を話さなくてはならない。
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