翌朝私はKをみた。心なしか少し疲れている様子だった。無理はない。所属したばかりの営業部のなれない仕事の中、1日に20件も引き継ぎを行っているのだから。
しかも名刺もなく、携帯電話もない状態で引き継ぎを行っている。この時、私よりも過酷な状況に立たされているのは間違いなくKだった。
私はKに昨日の引き継ぎのことをそれとなく訊いた。すると、まだ何とも言えないというような妙な返事が返ってきた。私はその時
その意味が分からず、ただ「そうなんですか」と受け流していた。しかし、後々発覚することになるのだが、Kは私が想像していたよりもさらに過酷な状況に立たされていた。
入社したばかりの私とK。右も左もわからない状態での引き継ぎ。名刺もなく、携帯電話もない。Kに至っては、一体どうやってクライアントと連絡を取り合うと言うのだろう。私はその時疑問に思っていたが、口に出さずにいた。口に出すと、さらにKを追い込んでしまうような気がしたからだ。
Kは逆に私に対して昨日はどうだったかを訊いてきた。私はまだ引き継ぎを行っていないこと、さらに昨日の諏訪の様子などをできるだけこと細かく伝えた。
するとKはとても驚いた様子だった。なんと諏訪とは正反対で全くと言っていいほど電話がかかってこなかったと言うのだ。しかも車での移動中はナック5のゴゴモンズをきいて、要所要所で不敵な笑みを浮かべていたらしい。
Kの直属の上司、つまり現在引き継ぎを行っている上司は年齢で言えば、私よりも4つか5つ下のはずだった。中華系の顔を思わせるきりっとつり上がったした目をしており、喋り方もどこかぎこちない。何を考えているのかよくわからず、あまり積極的に人と関わりを持とうとしない性格のようだった。
Kの直属の上司の名は高崎といった。他の営業部からの人間から見てもどうやら高崎は何処で何をしているのかわからないと言われるほどミステリアスな営業部員だった。
高崎の担当しているクライアントの売上が下がっているところからすると、仕事をしていないのではないかという疑惑も社内ではあったようだ。
もともとは物流の人間だったようで、どうみても営業には向いていないのにも関わらず何故か営業にあがってきたという異色の経歴を持つ。
いや、私が転職したブラック企業ではこのような不可解な人事が行われるらしい、と噂されていた。営業3部の部長もしかり、不可解な人事により急に異動になることも少なくないという。
そして今回もまた高崎は他部署へと異動となるようだった。その高崎の後を引き継ぐのがKだった。
会社に着くと、ブラック企業の人事担当者である村田が待ち構えていた。そして私とKにこのように告げた。
「今日は午後六時から本社にて特別研修を行う。遅刻しないように。」
私とKはお互いに目を見合わせていた。
つづきはこちらから【ブラック企業体験談】ブラック企業の本社会議室では、社長による、社員を洗脳する為の妖しい研修が行われていた。
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